Eclipse Ankaiosによる自動車HPCソフトウェアの複雑性管理
自動車のハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)ソフトウェアにおける複雑性は年々増しています。これに伴い、ソフトウェアワークロードの管理やアップデートに大きな課題が生じています。クラウドネイティブ環境で用いられる従来のコンテナオーケストレーターは、自動車HPCには不十分であることが明らかになっています。
こうした課題に対応するため、エレクトロビットはEclipse Ankaiosを発表しました。これは業界初の、オープンソースの組み込みコンテナおよびワークロードオーケストレーターで、自動車メーカー固有の要件に特化して設計されています。本記事では、自動車HPCソフトウェア管理における課題、従来のオーケストレーターの限界、そしてEclipse Ankaiosが提供する軽量で強力なソリューションについて紹介します。
増大するソフトウェアワークロード管理とアップデートの課題
車両はこれまで以上にソフトウェア集約型となり、この傾向は今後も続く見込みです。HPCシステムにおけるソフトウェアワークロードの管理・アップデートは、自動車メーカーにとって大きな課題となっています。自動車のソフトウェアの複雑性や規模に対応するには、効率的なソリューションが必要です。
多様なECU(電子制御ユニット)上では多くのソフトウェアコンポーネントが動作しているため、ソフトウェアワークロードのオーケストレーションはソフトウェア開発において極めて重要です。しかし、従来のアプローチでは、こうした進化する要件への対応は困難です。
自動車HPCにおける従来型コンテナオーケストレーターの限界
Kubernetesのようなコンテナオーケストレーターは、クラウドネイティブ環境でのソフトウェアデプロイを革新しました。しかし、自動車HPCにそのまま適用するには無理があります。自動車システムにはリアルタイム性の確保、リソース制限、安全性・セキュリティに関する厳格な要件があるためです。
従来のコンテナオーケストレーターは、そうした制約下ではオーバーヘッドや複雑性が増大し、HPCの限られたリソースを圧迫します。自動車環境におけるコンテナアプリケーションを効率的に管理するには、専門的なソリューションが求められます。エレクトロビットは、まさにそうした専門的なソリューションの開発を得意としています。
Eclipse Ankaios:軽量かつ強力なソリューション
エレクトロビットは、2022年3月にSOAFEEとして知られる自動車とテクノロジー企業による業界横断的な連携に参加し、Kubernetesや軽量ディストリビューションであるK3Sが自動車HPCに適しているかどうかを検証し始めました。デモを作成し、パフォーマンスを測定した結果、自動車向けには適合しないと判断しました。
しかしこの取り組みの中で、複数の顧客から自動車HPC向けのコンテナオーケストレーションソリューションに関する問い合わせがありました。私たちはこの機会を活かし、2022年10月にエレクトロビットの自動車HPCコンテナとワークロードオーケストレーターであるAnkaiosを開発しました。
Ankaiosはオープンソースプロジェクトとして開発されましたが、要件トレーサビリティや堅牢な設計といった、自動車ソフトウェア開発での手法を取り入れました。要件トレーサビリティは、一般的なオープンソースプロジェクトではあまり見られないアプローチですが、Ankaiosでは車載ソフトウェアをASPICEプロセスに準拠させるために導入しました。
また、アーキテクチャ設計にはPlantUMLやDraw.io、要件トレーサビリティにはOpenFastTraceを使用し、誰でも貢献できる環境を整備しました。現在、C/C++が主流の車載ソフトウェアにおいて、より安全なメモリ管理を実現するRustを選択し、パッケージ管理にはCargoを採用することで、広範なエコシステムも活用できるようにしました。
Ankaiosは、自動車HPCのために特化して設計された初の組み込みコンテナおよびワークロードオーケストレーターであり、クラウドネイティブの概念を車載用途に応用した、軽量かつ強力なフレームワークです。
Podmanなどの複数のコンテナランタイムをサポートし、複数のノードや仮想マシン(VM)の一元的なAPI管理を実現します。これにより、アプリケーションとコンテナの統合管理が可能になり、効率化と複雑性の低減を実現します。
EB corbos Linuxとの統合による開発効率化
Ankaiosは、UbuntuをベースにしたエレクトロビットのオープンソースOSであるEB corbos Linux – built on Ubuntuとシームレスに統合できます。
この統合により、開発者はアプリケーションをコンテナ化し、実車ハードウェアへの展開の前にクラウド上でテストできます。これにより、ソフトウェア開発の加速、堅牢性の確保、そして次世代のSDV(ソフトウェア定義型車両)の迅速な市場投入が可能になります。
オープンソース標準と連携の推進
エレクトロビットは、Eclipse SDVワーキンググループ内でオープン標準と連携を積極的に支援しています。Ankaiosを公式Eclipse SDVプロジェクトとして提供することで、SDV分野における連携とイノベーションの促進を目指しています。
すでにAnkaiosはEclipse SDVコミュニティで注目を集めており、公開レビューを通じてさらなる改善と貢献が期待されています。こうした協働アプローチにより、Ankaiosは業界のニーズに即した進化を遂げ、広く採用される堅牢なソリューションへと成長していくでしょう。
Eclipse SDVコミュニティにおけるエレクトロビットの積極的な取り組み
エレクトロビットは、Eclipse SDVコミュニティに参加し、積極的に自動車テクノロジーの未来を共に切り拓いています。たとえば、Eclipse SDV Hackathon ChallengeというイベントではAnkaiosをベースとした「Maestro Challenge」に取り組み、実際の課題解決に貢献しています。
さらに、Eclipse SDVのCommunity Daysにも参加し、ルートヴィヒスブルクでのイベントでは、Ankaiosチームがコミュニティと交流し、最新情報やデモを披露しました。Ankaiosの正式なソースコード公開を前に、多くの関心と問い合わせが寄せられました。
プレゼンテーションだけでなく、SDV BlueprintやProcess and Maturity Levelsセッションなどにも積極的に関与しており、オープンソースプラットフォームにおける連携とイノベーション推進に取り組んでいます。
イノベーションにオープンな姿勢
Ankaiosは、既存のオーケストレーターの限界を克服し、クラウドネイティブの概念を車載ソフトウェアに適用することで、ソフトウェア管理の簡素化、効率化、そして迅速なSDVの開発と展開を実現します。
EB corbos Linux – built on Ubuntuとの統合や、オープン標準と連携への取り組みにより、Ankaiosは自動車業界におけるHPCソフトウェア管理のリーディングソリューションとして、複雑な課題の克服を後押しします。
Ankaios on GitHub: https://github.com/eclipse-ankaios/ankaios



